[2]石けんに発ガン性?

大矢勝:2004.10.7]

「石けんに発ガン性の危険?」といえば、誰もが驚くことでしょう。まずは、下の石けんの発ガン性についての危険説を読んでください。その上で、どのように感じたかということを指標として、あなた自身の合成洗剤に対する態度を確認していただきたいと思います。

◇石けんに発ガン性の危険性?
 まず最初に断っておきますが、石けん自体には発ガン性は認められていません。しかし、石けんと兄弟関係にある脂肪酸と呼ばれる化学物質に発ガン性が認められているのです。具体的名称としては飽和脂肪酸として炭素数12のラウリン酸、14のミリスチン酸、16のパルミチン酸、18のステアリン酸、不飽和脂肪酸として炭素数18のオレイン酸、リノール酸等が挙げられます。
「ザックス有害物質データブック」(丸善)やインターネット上の「神奈川県化学物質安全情報提供システム」に関連情報が載っています。ステアリン酸とオレイン酸に発ガン性、ラウリン酸とパルミチン酸に催新生物性が認められ、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸は皮膚刺激性があると記されています。また、ラウリン酸やパルミチン酸には染色体異常試験で陽性である旨の説明もあります。このように、脂肪酸に関する毒性を調べてみると、まるで有害物質の代表格であるかのような説明が見られます。
 この脂肪酸は石けんと密接な関係にあり、周辺の状況がアルカリ側に傾けば脂肪酸は石けんに変化し、周辺の状況が酸側に傾けば石けんは脂肪酸に変化します。そして脂肪酸は石けんの原料にもなり、石けん製品にも必ず含有されており、石けん使用時にも発生して皮膚表面等に残存するものです。石けん液を泡立てると、石けん液は空気と接触する部分が増え、空気中の炭酸ガスと接触して酸側に傾いて脂肪酸を生成します。特にアルカリ剤の含まれていない石けんは、泡立てると脂肪酸含有量が増します。また石けん使用後に酢やクエン酸等でリンス処理すると、残存する石けん分が脂肪酸に変化します。脂肪酸は油の一種ですから毛髪や衣類の表面を脂肪酸が覆うことによって、滑らかさを与えることになります。しかし、意地悪な言い方をすれば、これは発ガン物質で表面を覆っていることになるのです。
 なお、合成洗剤に含有される成分で、ここまで明確に「発ガン物質」であると指摘されるようなものはあまりありません。合成界面活性剤で高濃度であれば、油性の発ガン物質の吸収を高めて発ガン補助性がみられることはありますが、これは界面活性剤に共通の性質によるもので、石けんでも同様に考えられます。合成界面活性剤で発ガン性や催新生物性が指摘されるようなものは生き残ることはできません。

◇上記の石けん有害説への反論に対して
 上記の石けん有害説は、書いた本人も実はあまり気味のいいものではないのですが、科学的な間違いはそれほど含まれてはいません。さて、反論としてどのような内容が考えられるでしょうか。その予想される反論に対する再反論を示しましょう。

[1:脂肪酸は天然物で人体にも含まれているのだから問題ない]
 上記の発ガン性は動物試験で確認されたものです。動物は当然生体構成成分として脂肪酸を含んでおり、天然物中の脂肪酸にも慣れています。しかし、その動物試験において発ガン性が認められたのです。天然だから、生体の構成成分だからといった理由は免罪符にはなりえません。石けんと発ガン性との関連は、現在一般に使用されている合成洗剤に含まれる化学物質の有害性と比較して、決して低く判断されるようなレベルのものではありません。

[2:石けんから生成する脂肪酸は少ないので問題ない]
 石けんはすすぎの時に金属石けんになって、脂肪酸として残留する分は少ないという説もあるようです。しかし、そのようなことはありません。石けんを使用すると、相応の脂肪酸が生成します。特に、酢やクエン酸等でリンス処理を行うと、石けん、金属石けんともに脂肪酸に変化します。石けんで洗えば布等がふっくらとするとよくいわれますが、この効果の大きな原因は布に残留する脂肪酸です。

[3:ごく少量だから問題ない]
 その通りです。実際に私たちが石けん使うことによって接触するであろう脂肪酸は少量ですから実際には問題はないと考えられるでしょう。問題は、その「ごく少量だから問題ない」という考えを合成洗剤に当てはめてよいのかどうかということです。合成洗剤の危険性も、高濃度で悪影響が出たとしても、通常の生活で接触するレベルならば問題ないとされています。しかし、合成洗剤否定派はわずかでも有害性が認められるものは排除すべきだと主張します。この合成洗剤否定派と同様に考えるならば、発ガン性や催新生物性などの認められる脂肪酸を私たちに接触させる原因となる石けんは、十分に排除対象となる条件を備えています。「ごく少量だから問題ない」とする考えは、「わずかでも有害性が認められるものは排除すべき」との理由で合成洗剤を否定する姿勢にも反対すべき考え方ですが、そのような合成洗剤否定派の考え方をあなたは否定しますか?
 もしも、石けんに対しては「ごく少量なら問題ない」が自然に受け入れられるのに、合成洗剤には「ごく少量なら問題ない」は認めがたいと感じるならば、既に石けんを優位に扱いたいとする感情が理性的判断を狂わせているのだと判断できるでしょう。合成洗剤v.s.石けんの問題を科学的に判断する土台が崩れているのです。

[4:むやみに人に恐怖心を与えるのはよくない]
 その通りです。上記の文章は読者に多少なりとも石けんに対する恐怖を感じさせる表現になっています。[3:]で実際に石けんを使っても問題はないと私はフォローしていますが、それでも敏感に反応して石けんに恐怖心を抱く人もいるかもしれません。そのことを感じ取って、「大矢はとんでもないやつだ」と怒りを感じる人もいるかもしれません。
 しかし、ちょっと待ってください。これと同レベル、いやそれ以上にひどいレベルで合成洗剤の有害性を誇張して広め、恐怖心を植えつけるような情報がたくさんあります。それらの情報には怒りを感じないのでしょうか?合成洗剤の有害性を誇張する情報には何も感じず、石けんを否定する情報には敏感に反応して嫌悪を感じるならば、その人もまた石けんを合成洗剤よりも優位にしたいという感情に支配されているのです。「むやみに人に恐怖心を与えるのはよくない」との正論を通すためには、今回の文章に文句をつける前に、合成洗剤有害説を誇張する情報に対して先に文句をつけるのが筋です。

◇どのように感じたか?
さて、上記の石けん有害説、そして予想される反論に対する反論を読んで、どのように感じられたでしょうか。特に何も感じなかった、または上記文章に対して異論・反論等は特に抱くことがなかったという人は別として、次のように感じた人には私から伝えたいことがあります。

[石けんが怖いと感じた人]
 上記の石けん有害説を読んで石けんが怖いものだと感じられた人は、多分、積極的に第三者に合成洗剤の有害性を伝えたり、石けんを勧めたりすることはなかったでしょうが、今までTV番組や雑誌情報を通して何となく合成洗剤はあまり良くないものだという印象を持っていた、または合成洗剤は怖いものだという情報をそのまま受け入れて合成洗剤有害説を信じてこられた方でしょう。
 性格的には、ちょっと情報に左右され過ぎかと思われますが、冷静に考えていくことによって、適切な対応が見えてくるでしょう。念押しして言いますが、石けんは普通の使い方をしている限り、決して怖いものではありません。現段階では安心して使ってよい代表的な化学製品であると判断できます。

[自分は石けんが好きだから石けんを支持しているのだと弁解する人]
 既に、合成洗剤は有害であるとする情報を発信してきた経緯があり、今回の石けんの発ガン性に関する文章を読んで、合成洗剤を否定する根拠が間違っていたことに気づいた人は、「自分は合成洗剤を悪く言うつもりはない。石けんが好きだから石けんを人に勧めているのだ」と反応する場合が多いようです。
 合成洗剤有害説に対する反論情報が少なかったので、合成洗剤有害説を鵜呑みにし、それに肩入れしてきたことは仕方ない部分もありますが、情報発信で第三者に影響を与えたのであれば、その点で多少なりとも反省する気持ちをもっていただきたいと思います。過去に発した情報を振り返ると、決して「好きだから」で済ませられることではないことが理解できるでしょう。
 何より不思議なのは、そのように合成洗剤の有害性を誇張して消費者を惑わし、振り回してきた確信犯に対して怒りが向けられないことです。上記の「石けんの発ガン性」に関する情報程度で態度がぐらつくならば、それは情報戦略としてうまく利用されてきた立場の人々、いわば被害者の立場なのです。合理的理由なく私利私欲から合成洗剤を葬りたいと考え、確信犯的に無責任な情報を振り撒いてきた合成洗剤有害論による被害者なのです。

[石けんの発ガン性情報をもみ消そうとする人]
 合成洗剤反対・石けん推進に絶対的な価値観を見出している人は、石けんの発ガン性論議のような類の情報を完全に無視したり、もみ消そうとしたりします。次元の異なる話題、たとえば「大矢は合成洗剤業界と繋がりがある」などと理由をつけて、このページの情報に信頼性のないことを印象付けようと試みるでしょう。また、何の理由もつけずに「あんな情報は見る価値がない」と一蹴するなどの手法で、同じ土俵に上ることを拒否します。他に、大学教員の発する情報として不適切だからホームページを閉じろと要求してくる場合も考えられます。要は、合成洗剤否定が絶対的価値観であり、それに対して不都合な要素は押し殺してしまうというものです。
 今後の高度情報社会の中で、環境・安全に関する情報はどうあるべきかと、私なりに、ここ数年間色々と考えてきましたが、その結果、上記のような非科学的情報を振り回す確信犯的情報発信者に対しては、私のような比較的自由に動くことのできる立場の者が明確に対抗姿勢を示していくことが要求されるという結論に至りました。このコーナーとは別のところになるかと思いますが、私なりの活動を展開し、それらの確信犯的に非科学的情報を発信する者(特に洗剤関係に限りませんが)に対抗していきたいと思います。

以下このコーナーで私から発信される情報は、とりあえずは上記の「石けんの発ガン性」情報を受け入れることのできる人、すなわち「合成洗剤は排除されるべきもの」との不合理な信念に支配されておらず、安全性や環境影響について科学的に考えていくことのできる素地をもった人々を対象としています。そのような人々に、過去に流通している合成洗剤有害説がどのように間違っているのか、そして今後の石けん・合成洗剤に求められる課題とはどういうものなのかを述べていきたいと思います。

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