環境情報学 -地球環境時代の情報リテラシー-
大矢 勝 著、 大学教育出版 発 行
ISBN 978-4-86429-216-0
「はじめに」より
日本で「地球環境」という用語が頻出するようになったのは1990年代はじめからである。その後、マスコミや学校教育などを通じて地球環境に危機が迫っている状況が広く伝えられてきたため、現在では大多数の人々が地球環境問題を認識するようになった。車両や家電品などの商品の性能として省エネが重視すべき項目として定着するようになり、また各自治体での廃棄物の収集システムなどもリサイクルを意識した体制に切り替わっている。ごみの分別は国民の常識となり、環境負荷を少なくする商品に注目が集まるようになった。
一方で、2008年のリーマン・ショック、2010年に明確化した欧州金融危機が世界経済を揺るがしている。日本でも、バブル崩壊の1991年以降の経済停滞期は失われた20年とよばれる苦しい状況の中、2011年3月の東日本大震災によって更に大きなダメージを被り、経済的には非常に苦しい立場に追い込まれている。世界的にも日本国内でも経済の回復が切望されているのだが、そのためには商品等の生産量と消費量を増大させて貨幣の流通を増大させることが求められる。経済の活性化は一般には省エネ・省資源をベースにする環境対策とは逆方向の路線であり、近年の経済危機は明らかに地球環境問題への対応を鈍らせている。
持続可能性(サステイナビリティ)は後世代にも地球の資源を残していくための環境保護の方向性を示すが、世界的には持続可能な開発(サステイナブル・ディベロップメント)のコンセンサスが得られている。開発とは地球資源を活用した経済活動を指すもので、基本的には環境を破壊する人間活動の一つである。開発途上国が主張する経済発展のための開発と、先進国の主張する地球環境保護を突き合わせた妥協案であり、環境と経済をバランスさせることの困難さが滲み出ている。
このように地球環境問題に対応するには環境保護と経済とのバランスを図るなど、非常に大きな困難が伴う。しかし、今後の地球環境のためには避けて通ることのできない課題でもある。その難題に対して、中心的な立場となり今後の社会のあり方を考えるべき人々は、現在の若者世代である。筆者も微力ながら大学の授業やセミナーなどを通して種々の環境問題が存在すること、そして、その本質を大量生産・大量消費社会の歪みとして捉えるべきことなどを人々に伝えるとともに、今後の環境対応策のあり方を考えていくことの重要性を説いてきた。
但し、「考える」重要性を説いたとしても、どのように思考すべきかについてはあまり触れることはできなかった。そこで今回、環境問題の思考方法についても言及する内容の書籍を目指すこととした。現在の環境問題には多様で複雑な要因が絡み合うが、市民個々人が関連情報を収集・整理し、バランスよく思考することによって自身の意思決定に結びつけるプロセスが求められる。この部分を中心課題として、環境問題の情報リテラシーとして本書をまとめさせて頂くこととした。
筆者は2006年に、環境情報の収集・整理方法、そして意思決定のための注意点を消費者視点からまとめた「消費者の環境情報学」を著した。本書は当該書籍の改訂版として位置づけられる内容であるが、意思決定のための思考方法やその方向性を追記するとともに、全体として消費者視点だけではなく一般的な視点で論じるものに変更したので、「環境情報学」のタイトルでまとめなおすこととした。
本書は基本的には筆者の担当する授業の教科書としてまとめたものであるが、一般学生や社会人等にとっても、どのようなポリシーをもって複雑な地球環境問題に臨んでいくべきかを考える参考になるものと自負する。そして地球環境問題の解決に向けて何らかの役に立つことを望むものである。
おわりに、本書を著すにあたってご協力いただいた、先輩諸氏、研究室の卒業生や学生、授業を通して貴重な意見を頂いた受講生等に感謝申し上げる。
【目次】
はじめに
第1章 環境情報学の意義
Ⅰ 「環境情報」の定義
Ⅱ 環境情報学の目標
Ⅲ 環境問題の深刻化
Ⅳ 環境問題の複雑化
Ⅴ 社会の高度情報化
Ⅵ 環境情報学に求められるもの
第2章 環境問題の全体像の把握
Ⅰ 環境情報の分類法
Ⅱ 注目すべき環境問題
1.環境政策・ビジネス関連
2.水・大気・土壌関連
3.廃棄物・リサイクル関連
4.資源・エネルギー関連
5.有害化学物質関連
6.自然関連
Ⅲ 環境問題の相互の関連性
第3章 環境情報の収集・整理法
Ⅰ 高度情報社会の情報収集・整理の考え方
Ⅱ 情報収集・整理の一般的手順
1.目的の確認
2.情報源の選択
3.情報収集・整理
Ⅲ 環境情報の具体的収集法
1.基盤書籍
2.インターネットの利用
Ⅳ 環境情報の論点別整理法
1.基本姿勢
2.具体的事例より
第4章 「専門-一般」尺度の理解
Ⅰ 「専門-一般」の尺度
Ⅱ 理化学系情報の各段階における特徴
Ⅲ 専門情報・一般情報の今後の課題
第5章 不良情報の識別
Ⅰ 不良情報の分類
Ⅱ バイブル商法型
Ⅲ 消費者運動型
Ⅳ 知識不足型
Ⅴ フードファディズム
Ⅵ 経皮毒商法
1.経皮毒とは
2.「経皮毒」関連の情報の問題点
3.根本的な原因
第6章 環境情報を発信するための手順と注意点
Ⅰ 情報発信に関する一般的課題
Ⅱ 環境情報発信の一般的手順
1.情報発信のための4つのステップ
2.情報発信目的の明確化
3.発信した情報へのフォロー
Ⅲ 情報発信プラニング事例より
1.地球温暖化のメカニズムに関する情報発信
2.化学物質の毒性に関する情報発信
3.ゴミ分別に関する情報発信
4.環境関連書籍紹介
第7章 情報発信トラブルを避けるために
Ⅰ 情報発信者としての社会的立場
Ⅱ 著作権と肖像権
Ⅲ 名誉毀損・侮辱について
Ⅳ 新たなコミュニケーション形態の注意点
Ⅴ 個人レベルのコミュニケーション阻害要因
1.論理的なコミュニケーションのために
2.一般的攻撃性に関して
3.性格の多様性を認識する必要性
4.パーソナリティ障害との関連で
Ⅵ トラブルに巻き込まれたら
1.民事裁判と刑事裁判
2.弁護士とどう向き合うか
3.紛争時の具体的手続き
第8章 環境問題の思考に求められるもの
Ⅰ 2種の科学と思考
Ⅱ 「考える科学」の基本条件
Ⅲ 「無害の証明」について
1.100%の安全性保証の意味
2.「100%の安全性」の不適切な表現
Ⅳ 論理の検証方法
1.原因と結果の因果関係について
2.確率に関する表現について
第9章 バランス感覚を養う
Ⅰ 「生活-地球」「科学-社会」の次元認識
1.「生活-地球」「科学-社会」尺度
2.個人の特徴づけより
3.問題解決のバランスのため
Ⅱ 「地球-人間」軸より
1.地球中心主義と人間社会中心主義
2.論議混乱の原因
第10章 数値処理の基礎知識
Ⅰ 数値の信頼性について考える
Ⅱ 平均値の差の検定
Ⅲ 差の有無を感覚的に読み取る
Ⅳ 統計のウソを見抜く
Ⅴ リスク論・LCAより
第11章 新思考ツールで地球環境への対応法を考える
Ⅰ 2種の社会における地球環境問題解決のあり方
Ⅱ モラルと論理思考の必要性
Ⅲ 「支配―被支配」の人間関係による思考ツール
Ⅳ 地球環境問題に対応する「和のモラル」
Ⅵ 一方型思考への対応はどうあるべきか
第12章 サステイナブルな社会を構築するための課題
Ⅰ 省資源・省エネルギーの必要性
Ⅱ 解決策としての「節約」の限界
Ⅲ 新たな消費者運動の流れとして
Ⅳ ファッション関連産業を例に
Ⅴ 新たな環境教育・消費者教育の必要性
おわりに
(2013年4月20日)
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Last modifided 2013.4.20 Maintaied by OYA Masaru (大矢 勝)