戻る |
■ 個人事業主となって学会に感じること | 2024. 7.30 |
定年退職後は常勤での勤務はなく、企業の技術顧問や非常勤講師等を行う個人事業主として暮らしています。そこで感じることをいくつか。 大学教員としてやってきた時期、あり得ないほど恵まれた環境だったと思います。具体的には給与報酬は、大学での授業(卒論等指導を含む)、大学内の会議参加や教務関係等の業務をはじめとして、研究活動や社会貢献等を含めて業務対象となります。 たとえば、学会活動も研究活動や社会貢献に関連するものとして業務扱い、つまり大学の研究費等を使って出張等を行うことが正当とされます。大手企業も学会への協力が、リクルート活動にも関与はしますが、主に社会貢献の一環として対応されます。それで、新規企業や外資系企業の中には、時間・労力に見合わない学会への協力はしないとする場合も多いですね。また当然のことですが、従来学会に協力してくれた企業でも経営状況が悪くなると離れていく企業もあります。 個人事業主となると、さらにシビアです。個人事業が学会活動と密接にリンクしている場合や、必要経費として所得を減らしたいほど個人事業がうまくいっている場合は別でしょうが、個人事業では学会やその他の活動は、所得、時間、労力に関連して個人事業を妨げる要因になりかねません。ということで、学会は会員に対してどう貢献できるかということに非常に敏感になりました。 現在、学会の会長を務めていますが、今までの考えの甘さを感じ取るとともに、今後の学会の在り方について色々と考えます。まずは年会費や催事参加費等に見合うリターンを提供できる組織でなければなりません。医学系学会では「専門医」を与える絶対的な組織として安泰ですが、そのレベルを目指すのは多くの学会では非現実的です。昔は論文発表の場としての重要性がありましたが、学術成果の発表の場のボーダレス化によって日本語ベースの学会誌を発行している国内学会の立場は非常に弱くなりました。インターネットの普及によって専門情報の提供の場として、また情報発信の媒体としての学会の意義も弱くなってきました。有名な研究者なら学会に頼らなくても個人やグループで情報発信して十分な影響力を発揮できます。学会との連携は、むしろ自由度が少なくなって敬遠されることもあるでしょう。 さて、この状況下で今後の学会には何が求められるでしょうか?ひとつ、強者よりも弱者を主なターゲットとすることが求められるでしょう。比較的中小の組織ではアクセスできないデータベースの利用を助力するとか、単独では研究できない環境のメンバーの連携を推進して研究のマネジメントを行うなどが考えられます。また自身が退職して分かったのですが、退職後に専門を生かして収入を得る活動が行える人が比較的少なく、その部分をマネジメントして人材活用に貢献できる組織があれば大変役立つだろうと思います。その意味で、起業を援助するといった活動も求められるかもしれません。また、従来にはない新たな研究開拓のための人材、資金(公的資金獲得を含む)、設備等をマネジメントするなども良いかもしれません。 いずれにしても、今後の社会の流れを睨んで有望なニーズ、シーズを把握して実際の活動にフィードバックすることが求められます。ただ、このレベルの業務はボランティアでは不可能です。今後は「学会の企業化」が求められるのかもしれませんね。 |