湿式人工汚染布とは?(Q&A_017)
日本での洗濯試験によく用いられてきた汚染布で、JIS C 9606 「電気洗濯機」の中で洗濯機の機械力評価を行うための試料として定められている。洗濯科学協会が販売してきたが、2021年9月からは株式会社双立(株主は白洋舎)が事業を継承して販売している。
この汚染布の開発に関する論文[1]が発表されたのは1981年であるが、それまでは牛脂極度硬化油、流動パラフィン、カーボンブラックを四塩化炭素に溶解・分散して汚染液とし、そこに木綿布を浸漬して汚染布を作成する方法(日本油化学協会法)で作成した汚染布がよく使われていた[2]。しかし、溶剤を媒体として作成した汚染布は洗剤中のアルカリ剤の効果等が出にくく、実際の汚染衣類の洗浄挙動とは異なる点があること等が問題視されていた。
そこで、実際の皮脂汚れの組成に近い油性成分を配合するとともに、たんぱく質や土壌成分も混合した汚れを付着させた汚染布が開発されたのである。それまでの有機溶剤による油溶解を主体とした方法から、水を媒体として油成分やカーボンブラックはたんぱく質で乳化・分散して汚染液を調製して汚染布を作成する方法に切り替わった。これは水分散媒法汚染布あるいは湿式汚染布と呼ばれる。なお、湿式とは乾式の対語であるが、水を用いる場合は湿式、有機溶剤を用いる場合は乾式となる。ドライクリーニングの「ドライ」は「乾式」を意味するが、液体を用いないという意味ではなく水を用いないということを意味する。
※濡れないという意味ではなく濡れてもすぐに乾くという点から命名されたのではないかと推定される。なお文献[1]を含めて有機溶剤を用いる手法をwetに分類する文献もある。
汚染液は油性成分としてオレイン酸(28.3%)、トリオレイン(15.6%)、コレステロールオレエート(12.2%)、流動パラフィン(2.5%)、スクアレン(2.5%)、コレステロール(1.6%)を用い、たんぱく質としてゼラチン(7.0%)、固体汚れとして赤黄色土(29.8%)、カーボンブラック(0.5%)を用いる。ゼラチンが油性成分を乳化するとともに、カーボンブラックを分散して水中に安定化させる。水道水950mLに対して汚れが約50gとなるようホモジナイザーを用いて混合して汚染液を調製し、汚染液に木綿カナキン布(10cm×20cm)を浸漬してかき混ぜながら汚染し、ロールで絞って105℃の乾燥機で加熱し、ラビング、裁断、選別して汚染布を準備する。
天然の衿垢汚染布に近い洗浄挙動を示すと期待されてきたが、洗剤の洗浄力比較を行う際には天然汚れの挙動とは必ずしも一致しないとの主張もある。また洗剤の洗浄力比較に用いることを推奨する意見もあまり見かけない。実際、湿式人工汚染布は過度にアルカリ成分の影響を受ける傾向も認められているので、そういう点には注意が必要である。
文献
[1] 奥村統, 徳山清孝他、新しい人工汚こう布に関する研究(第1報)タンパク質を配合した人工汚こう布の汚こう組成及び調整方法の研究, 油化学, 30(7), 432-441 (1981)
[2] 戸川暖子, 駒城素子, 洗浄力評価における人工汚染布について, 生活工学研究, 4(1), 130-133 (2002) https://teapot.lib.ocha.ac.jp/record/40212/files/KJ00004828084.pdf
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横浜国立大学名誉教授 大矢 勝
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