炭酸塩水溶液のpHの計算法(Q&A_012)
炭酸塩の代表的なものとして炭酸ナトリウムNa2CO3と炭酸水素ナトリウム(重曹)NaHCO3がある。これらは洗浄でアルカリ剤としてよく用いられるものであるが、その水溶液のpHを計算で求めるのはやや難しい。ただ、これらのアルカリ作用を科学的に説明する際にはpHを求める過程、そしてその求め方を知っておくことが望まれる。炭酸塩水溶液のpOHとpHの計算方法を説明する。
[炭酸の2つの酸解離定数]
炭酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムはそれぞれ可逆的に変化する関係にある。 実はナトリウムイオンはあまり関係しないので炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオンのみに着目すると以下のようになる。
CO2 + H2O → H2CO3
H2CO3 ⇄ H(+) + HCO3(-) ⇄ 2H(+) + CO3(2-)
※一般に上ツキ文字で示すイオンの価数は(2-)のようにカッコ内に記すこととする。
こうして炭酸が解離すると考えると、炭酸は2段階で解離していくことになる。そのため、炭酸には2段階の酸解離定数(Ka1、Ka2)がある。Ka1、Ka2は以下の式で表される。
Ka1 = [H(+)][HCO3(-)]/[H2CO3]
Ka2 = [H(+)][CO3(2-)]/[HCO3(-)]
そして資料で調べると炭酸のKa1、Ka2はそれぞれKa1=4.3×10^-7(pKa1=6.367)、Ka2=4.8×10^-11 (pKa2=10.32)となっている。
[炭酸水素ナトリウムのpH]
炭酸水素ナトリウムは酸解離定数Ka1とKa2が関与するそれぞれの式の中間に位置する。こいう場合は次式が成立する。
[H+] = SQR(Ka1×Ka2)
※SQR() は平方根のルート記号の代替
pH = -log[H+] = -log((Ka1×Ka2)^1/2) =1/2(pKa1 + pKa2) = 1/2(6.367 + 10.32) = 8.34
よって、炭酸水素ナトリウムのpHは基本的には8.34となる。
但し、炭酸水素ナトリウムが気泡状態の気体を発生する場合、以下の反応でCO2が放出される。
2HCO3(-) → CO2 + H2O + CO3(2-)
CO3(2-)はHCO3(-)に比べてモル数で半減するが、HCO3(-)に比べてずっと強力なCO3(2-)が生じるのでpHは高めになる。加熱すればその反応はより早くなる。
[炭酸ナトリウムのpH]
炭酸ナトリウムの炭酸イオンはプロトンを含まない強い塩基なので、水中で次のように加水分解する。
CO3(2-) + H2O ⇄ HCO3(-) + OH-
Kb = Kw/Ka2 = (10^-14)/(10^-10.32) = 10^-3.68
Kb = [OH-]^2/ [CO3(2-)]
[OH-]^2 = Kb × [CO3(2-)]
<1M(10.6%)炭酸ナトリウムのpH>
[OH-]^2 = Kb × [CO3(2-)] = 10^-3.68 × 1
[OH-] = 10^-1.84
pOH = 1.84
pH = 12.16
なお炭酸ナトリウムのモル質量は106.0g/mol
1M = 106.0g/L = 10.6g/100mL = 10.6%
<0.1M(1.06%)炭酸ナトリウムのpH>
[OH-]^2 = Kb × [CO3(2-)] = 10^-3.68 × 10^-1 = 10^-4.68
[OH-] = 10^-2.34
pOH = 2.34
pH = 11.66
<0.01M(0.106%)炭酸ナトリウムのpH>
[OH-]^2 = Kb × [CO3(2-)] = 10^-3.68 × 10^-2 = 10^-5.68
[OH-] = 10^-2.84
pOH = 2.84
pH = 11.16
<0.001M(0.0106%)炭酸ナトリウムのpH>
[OH-]^2 = Kb × [CO3(2-)] = 10^-3.68 × 10^-3 = 10^-6.68
[OH-] = 10^-3.34
pOH = 3.34
pH = 10.66
なお讃岐化成の炭酸ナトリウムの説明書では20.0wt%でpH=12.3、10.0wt%でpH=12.1、1.0wt%でpH=11.5、0.1wt%でpH=10.9となっており、ほぼ上記計算値に一致している。
http://www.sanuki-k.co.jp/soda.pdf
1wt%、5wt%、10wt%の炭酸ナトリウム水溶液のpHが11.37、11.58、11.70とする資料もある。
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/10340
このように実測値では理論値と若干ズレる場合もある。
[セスキ炭酸ナトリウムのpH]
セスキ炭酸ナトリウムはNaHCO3・Na2CO3・2H2Oの化学式で表される物質で、炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムがモル比で1:1で混合した形になっている。よって、下記の中間的な状態である。
HCO3(-) ⇄ H(+) + CO3(2-)
こういう場合はヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を用いてpHを計算することができる。この式は下記の式で表される。
pH = pKa + log([A-]/[AH])
今回の場合は
pH = pKa2 + log([CO3(2-)]/[HCO3(-)])
セスキ炭酸ソーダでは[CO3(2-)]と[HCO3(-)]は1:1なので、
log([CO3(2-)]/[HCO3(-)])=0
よってpHは下記のようになる。
pH = pKa2 = 10.32
[CO3(2-)]と[HCO3(-)]の混合液はH+が増えれば[CO3(2-)]が[HCO3(-)]に変化し、OH-が増えれば[HCO3(-)]が[CO3(2-)]に変化してpHの変化をできるだけ抑えるように働く。
なお、セスキ炭酸ソーダの水溶液の1%液がpH=9.8というデータがみられるが、理論値と若干ずれがみられる。理論的には[CO3(2-)]と[HCO3(-)]の割合が変わらない限り、濃度によらずpHは一定値となる。
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横浜国立大学名誉教授 大矢 勝
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